なぜ融点や沸点は物質によって違うのか? - 高校生向け

前ページでは小~中学生向けに、物質によって融点や沸点が違う理由を説明しました。このページでは、高校生向けに、より詳しく解説しています。

イオン結晶の融点や沸点の大小を、化学式から予測できるようになりましょう!

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この記事のレベル(目安)

  1. 小~中学生レベル(前ページ)
    1. 状態変化とは?
    2. 磁石に働く力と電気に働く力
    3. 物質に働く力と融点・沸点
  2. 高校生レベル
    1. イオン結晶の融点と沸点

高校レベル

イオン結晶の融点と沸点

イオン結晶の融点や沸点は、イオンの価数とイオン間距離によって予測することが出来ます。

初めにいくつかの物質の融点と沸点について考察し、次にその結果をクーロン力の式に当てはめて考えてみましょう。

イオンの価数の積とイオン間距離との関係

まずは、いくつかのイオン結晶の融点と沸点を見てみましょう。

イオン結晶の融点・沸点と価数の積・イオン間距離の関係
物質価数の積イオン間距離(Å)融点(℃)沸点(℃)
NaF12339931704
NaCl12838011413
NaBr12987471309
MgF2220512482260
MgCl222537141412
MgBr22268172
MgO421228263600
CaO424025722850
※ここでのイオン間距離は、すべて6配位のイオン半径を用いて計算しています

この表から読み取れることが2つあります。

  • イオン価数の積が大きいほど、融点や沸点が大きくなる傾向がある
  • イオン間距離が大きいほど融点や沸点が小さくなる

これらについて、詳しく見ていきます。

まずはイオン価数の積に注目してみましょう。イオン価数の積とは、陽イオンの価数と陰イオンの価数の積です。たとえばNaFであればNa+は1価の陽イオン、Fは1価の陰イオンなので、(1価)×(1価)=1 となり、イオン価数の積は1となります。

上に挙げたイオン価数の積が1である物質の融点は1000℃以下であるのに対し、イオン価数の積が4である物質の融点は2500℃以上と非常に大きくなっています。また、イオン価数の積が1である物質の沸点は1000℃代であるのに対し、イオン価数の積が4である物質の融点は2850℃や3600℃とこれも非常に大きいです。このことから、イオン価数の積が大きいほど、融点や沸点が大きくなりそうであるということが分かります。

ただし、イオン価数の積が2である物質の融点や沸点は必ずしもこれに当てはまりません。それは、これらの物質の結晶構造が他と異なることが原因だと考えられます。すなわち、NaF、NaCl、NaBr、MgO、CaOは陽イオン:陰イオン=1:1で結合していますが、MgF2、MgCl2、MgBr2は陽イオン:陰イオン=1:2で結合しているために、結晶構造(イオン同士の配置)が異なるというわけです。NaF、NaCl、NaBr、MgO、CaOはすべて塩化ナトリウム型構造を取っているのに対し、MgF2はルチル型構造、MgCl2は塩化カドミウム型構造、MgBr2はヨウ化カドミウム型構造をとっています。



続いて、イオン間距離に注目してみましょう。たとえば、イオン価数の積が1で等しいNaF、NaCl、NaBrを順にみると、この順でイオン間距離が大きくなり、それとともに融点や沸点が小さくなっています。この傾向は、イオン価数の積が2であるMgF2、MgCl2、MgBr2についても同様に見て取れます。また、イオン価数の積が4であるMgO、CaOについても同様です。

このことから、イオン間距離が大きいほど、イオン結晶の融点や沸点は小さくなるという傾向をつかむことが出来ます。

クーロン力と関係づける

+や-の電荷をもった粒子の間には、互いに力が働きます。この力をクーロン力と呼び、クーロン力Fは次の式で求められます。

\[ F = k_0 \frac{q_1 q_2}{r^2} \]

ここでk0はクーロン定数と呼ばれる定数、q1 と q2 はそれぞれの粒子の電気量[C](=電荷×電気素量)、r[m]は粒子間の距離です。

荷電粒子間に働くクーロン力の図

前ページでお話しした通り、固体から液体になるときや、液体から気体になるときは、一般に原子・分子間の距離が大きくなります。すなわち、このクーロン力に逆らって原子・分子(いまはイオン)を引き離さなくてはなりません。引き離すのに必要なエネルギーは原子や分子の運動・振動である内部エネルギーに相当します。温度が大きいほど、この内部エネルギーは大きくなります。

さて、先ほどイオンの価数の積が大きいほど融点や沸点が高くなるというお話をしました。価数の積は、クーロン力の式における q1q2 の部分に対応します。すなわち、この値が大きい程クーロン力 F も大きくなり、イオンを引き離すのに必要な力は大きくなります。結果として、融解や沸騰を起こすのに大きな内部エネルギーが必要であり、それは融点や沸点が高いことに対応するのです。

また、イオン間の距離が大きほど融点や沸点が低くなるというお話もしました。イオン間の距離は、クーロン力の式における r2 の部分に対応します。これは分母にあるため、イオン間距離が大きい程クーロン力Fが小さくなり、イオンを引き離すのに必要な力は小さくなります。結果として、融解や沸騰を起こすのは小さな内部エネルギーで十分であり、それは融点や沸点が低いことに対応するのです。

まとめ

以上のことから、融点や沸点とイオンの価数と大きさの関係を理解することが出来ました。一般的な傾向として、次のようにまとめられます。

  • イオン価数の積が大きいほど、融点や沸点が大きくなる
    ※ただし、結晶構造が異なる場合は当てはまらない
  • イオン間距離が大きいほど融点や沸点が小さくなる

この知識を利用することで未知のイオン結晶の融点や沸点を予想することもでますね。ただし、これは一般的傾向であり、必ず成り立つわけではないことに注意してください。


付録

クーロン力の式と同様の形の式であらわされる「力」が他にもあるので、紹介します。


磁極に働く力

前ページで、クーロン力の説明のために磁石に働く力の例を出しました。この力の大きさF[N]は、クーロン力同様に
\[ F = k_m \frac{m_1 m_2}{r^2} \] と表すことが出来ます。kmは比例定数、m1とm2は磁気量の大きさ[Wb]、rは磁極間の距離[m]です。


万有引力

クーロン力、磁気力と同様の形の式が、万有引力についても現れます。すべての物体間には引力が働き、その大きさF[N]は、
\[ F = G \frac{m_1 m_2}{r^2} \] で表されます。Gは万有引力定数、m1とm2は2物体のそれぞれの質量[kg]、rは物体間の距離[m]です。