ヨードホルム反応の利用法と反応機構

ヨードホルム反応とは、CH3-CO-またはCH3-CH(OH)-の構造を持つアセトン、エタノール、2-プロパノール、アセトアルデヒドなどの分子が、ヨウ素I2および水酸化ナトリウム水溶液と加熱条件下で反応して、特有の臭気を持ったヨードホルムCHI3の黄色結晶を生成する反応です。

このページでは、ヨードホルム反応の利用法、反応式、反応条件、そして反応機構を説明しています。

ヨードホルムの分子式


もくじ

  1. ヨードホルム反応の利用法
    1. ヨードホルム反応とは
    2. ヨードホルム反応の反応式
    3. ヨードホルム反応の反応条件
  2. ヨードホルム反応の反応機構

ヨードホルム反応の利用法

ヨードホルム反応とは

ヨードホルム反応とは、CH3-CO-RまたはCH3-CH(OH)-Rの構造(ただしRはアルキル基、アリール基または水素に限る)を持つアセトン、エタノール、2-プロパノール、アセトアルデヒドなどの分子が、ヨウ素I2および水酸化ナトリウム水溶液と加熱条件下で反応して、特有の臭気を持ったヨードホルムCHI3の黄色結晶を生成する反応です。

ヨードホルム反応の反応式

反応する試料が、CH3-CO-の構造を持つのか、CH3-CH(OH)-の構造を持つのかで反応式が異なります。

CH3-CO-の構造を持つ場合

CH3COR + 3 I2 + 4 NaOH → CHI3↓ + RCOONa + 3 NaI + 3 H2O

例えばアセトンの場合、上式で R=CH3 とすれば反応式が完成します。また、ホルムアルデヒドの場合は、上式で R=H とすればよいです。

反応機構については、このページの続きで説明しています。

CH3-CH(OH)-の構造を持つ場合

初めにアルコールを酸化するため、ヨウ素1当量と水酸化ナトリウム2当量が余分に必要になります。

CH3CH(OH)R + 4 I2 + 6 NaOH → CHI3↓ + RCOONa + 5 NaI + 5 H2O

例えば2-プロパノールの場合、上式で R=CH3 とすればよく、エタノールの場合は R=H とすれば反応式が完成します。

反応機構については、このページの続きで説明しています。

ヨードホルム反応の反応条件

ヨードホルム反応は、下の反応機構の説明でも述べる通り、α水素が引き抜かれて生じるエノラートイオンが比較的安定して存在できる分子でのみ反応が起こります。

エノラートイオンの共鳴構造式
エノラートイオンの共鳴構造式

そのため、酢酸、酢酸エステル、エタンアミドのように、カルボニル炭素の隣(-R基の位置)に、孤立電子対を持った酸素原子や窒素原子が存在する分子では、ヨードホルム反応は進行しません。

このような場合、孤立電子対からカルボニル炭素へ電子が流れ込むため、カルボニル炭素のδ+性を低下させてしまいます(電子供与基として働く)。すると、α水素が引き抜かれたときに生じる負電荷をカルボニル酸素まで十分に非局在化できないため、生成したカルボアニオンは不安定となり、反応が進行しないのです。

以下の共鳴構造式から、共鳴が競合することが分かります。

酢酸のα水素が引き抜かれたときの共鳴構造式
酢酸のα水素が引き抜かれたときの共鳴構造式
酢酸エステルのα水素が引き抜かれたときの共鳴構造式
酢酸エステルのα水素が引き抜かれたときの共鳴構造式
エタンアミドのα水素が引き抜かれたときの共鳴構造式
エタンアミドのα水素が引き抜かれたときの共鳴構造式

また、ホルムアルデヒドやエタノールは、CH3-CO-やCH3-CH(OH)-といった構造を持たないため、ヨードホルム反応を示しません。

ヨードホルム反応の反応機構

ヨードホルム反応の反応機構は、次の通りです。反応は、塩基によってα炭素からプロトンが引き抜かれ、その後エノラートイオンが求電子的なハロゲン原子と反応することで進行します。

なお、CH3-CH(OH)-の構造を持つ第2級アルコールやエタノールに対しては、初めにアルコールの酸化反応が進行して、ケトンまたはアセトアルデヒドの形になったのち、以下と同じ反応を起こします。この酸化の反応機構は後で説明しています。

  1. α水素が水酸化物イオンによって引き抜かれる。
    平衡の矢印

    α水素が水酸化物イオンによって引き抜かれる。

  2. 生じた負電荷はカルボニル酸素上へ非局在化してエノラートイオンになれるため、負電荷は比較的安定に存在することができる。
    共鳴の矢印

    生じた負電荷はカルボニル酸素上へ非局在化してエノラートイオンになれるため、負電荷は比較的安定に存在できる。

  3. エノラートイオンが求電子的なヨウ素分子と反応する。
    反応の矢印

    エノラートイオンが求電子的なヨウ素分子と反応する。

  4. 同様の反応がさらに2回起こり、3つのα水素がすべてヨウ素に置換される。
    反応の矢印

    同様の反応がさらに2回起こり、3つのα水素がすべてヨウ素に置換される。

  5. 水酸化物イオンがカルボニル炭素に求核攻撃する。
    反応の矢印

    水酸化物イオンがカルボニル炭素に求核攻撃する。

  6. CI3-が脱離する。このイオンは求電子性のヨウ素原子によって負電荷が非局在化されるため、比較的安定に脱離できる。
    反応の矢印

    CI3が脱離する。このイオンは求電子性のヨウ素原子によって負電荷が非局在化されるため、比較的安定に脱離できる。

  7. カルボン酸イオンよりも強塩基であるCI3-がカルボキシル基からプロトンを奪う。これによって、ヨードホルムが生成する。
    反応の矢印

    カルボン酸イオン-COOよりも強塩基であるCI3がカルボキシル基からプロトンを奪う。これによって、ヨードホルムCHI3が生成する。

  8. 最終的にカルボン酸イオンとヨードホルムが生成する。

以上の反応では、α水素が1個、2個…と電気陰性度の高いヨウ素原子に置換されるにつれ、α炭素のδ+性が増加するため、α水素の置換反応はより速く進行するようになります。


さて、CH3-CH(OH)-の構造を持つ第2級アルコールやエタノールに対しては、以下の通り初めにアルコールの酸化反応が進行し、ケトンやアセトアルデヒドの形なったのち、上と同様の反応が進行します。

  1. 1当量のヨウ素分子と2当量の水酸化物イオンが反応して、1当量の次亜ヨウ素酸イオンIO-が生成する。
    反応の矢印

    1当量のヨウ素分子と2当量の水酸化物イオンが反応して、1当量の次亜ヨウ素酸イオンIOが生成する。

  2. 生成したヨウ化物イオンと次亜ヨウ素酸イオン、水の分子式
    反応の矢印

     

  3. 水酸化物イオンが、ヒドロキシ基-OHのプロトンを奪う。
    反応の矢印

    水酸化物イオンが、ヒドロキシ基-OHのプロトンを奪う。

  4. カルボニル基C=Oの生成と共に、プロトンが引き抜かれ、ケトン(またはアルデヒド)が生成する。
    反応の矢印

    カルボニル基C=Oの生成と共に、プロトンが引き抜かれ、ケトン(またはアルデヒド)が生成する。

  5. ケトンまたはアセトアルデヒドが生成した。これが前に示した反応機構でヨードホルム反応を起こす。

第2級アルコールまたはエタノールは、上の反応によってそれぞれ、ケトンまたはアセトアルデヒドに変化したのち、前に示した反応機構でヨードホルム反応が起こります。