浸透圧はなぜ生じるのか?

「青菜に塩」ということわざをご存知でしょうか?これは青菜に塩をかけたらしおれるように、人が元気をなくしてしょげている様子を表す慣用句です。

青菜とはホウレンソウのような緑色の葉をした野菜のことです。そして、これに塩を振りかけると、実にこの通りしおれてしまいます。それはなぜでしょうか?それは「浸透圧」が原因です。青菜に限らず、たとえば漬物を作る時にもこの現象は起きています。

そんな身近な現象であり、そして皆さんの生命を維持するためにも不可欠な浸透圧について、このページでは分かりやすく解説しています。

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この記事のレベル(目安)

  1. 小~中学生向け
    1. 世界のあらゆる物質は小さな粒でできている
    2. 膜にも小さな穴がある
    3. 浸透圧が生じる理由
    4. まとめ ~ 青菜に塩
  2. 高校生向け(次ページ)
    1. 浸透圧の計算式(ファントホッフの式)
    2. 浸透圧の計算

小~中学生向け

世界のあらゆる物質は小さな粒でできている

とても小さな粒の話

みなさんが毎日摂取している「水」をどんどん細かく分けていきましょう。どれくらいまで小さくできるでしょうか?

答えは、水1mLあたり、33000000000000000000000個(=3.3×1022個)の水の粒に分けることが出来ます。1mLというのは、一辺が1cmの立方体の体積です。その中にこれだけの数の水の粒が入っているのですから、粒一つ当たりの大きさは、日常では想像できないくらい、とても小さいということになりますね。

水1mLは水の33000000000000000000000個の水の粒でできている

これから皆さんと考えるのは、物質を作るこの小さな「粒」の話です。そして浸透圧を考えるために最も重要なのは、この粒の大きさの違いです。それに注目して、読み進めてください。

粒の種類にはいろいろある

先ほどお話しした通り、世の中のすべての物質は小さな「粒」でできています。いろいろな種類があるから、世の中のものは様々な色をしていたり、性質が違ったりするのです。

先ほど水のお話をしましたが、ここでもう一つ、食塩の粒も見てみることにしましょう。食塩というのは、「青菜に塩」の塩(しお)のことです。理科の用語では塩ではなく、「食塩(しょくえん)」と呼びます。食塩もどんどん小さくしていくと、それ以上細かくできない小さな粒になります。

浸透圧を考えるうえで大事なのは、粒の種類が違えば、その大きさも違うということです。食塩を水に溶かしたとき、その粒の直径は、水の粒の2倍程度あります。この大きさの違いが、浸透圧を考えるうえで大事になります。

粒は運動している

今述べた「粒」は、いつも動いています。たとえばおならをしたとき、すぐにはくさく感じないですが、しばらくするとくさく感じますね。それは、おならとして出たガスの粒が動いて、あなたの鼻までやってきたからです。この現象は、風が無い状態でも起こります。つまり空気やおならのガスの粒は「常に」動いているのです。

この粒の運動というのも、浸透圧に大きく影響します。たとえば、浸透圧が生じる条件の下では、粒の運動が早いほど(=温度が高いほど)浸透圧は大きくなります。


少し話がずれますが、このような粒の運動は絶対零度(-273℃)にならない限り完全には止まりません。実はこの粒の運動の激しさこそが、熱の正体なのです。したがって、粒の運動が完全に止まると、それ以上低い温度にはなりません。その時の温度こそが”絶対”零度であり、”絶対”と形容されている理由です。

膜にも小さな穴がある

風船にも小さな穴がある

みなさんは風船をふくらませたことがあるでしょうか?風船はゴムの中に息を入れて膨らませますが、口を縛らなければせっかく入れた空気は外に出て行ってしまいます。つまり、中の空気はできるだけ外に出ようとしているのです。

口を縛れば、風船を膨らんだままの状態にすることが出来ます。しかし、その風船を何日も放っておいたらどうなるでしょうか?おそらく、風船はだんだんとしぼんできてしまうはずです。それはなぜでしょうか?

それは、風船の中の空気の粒が、風船のゴムにあいた小さな穴を通って外に出てしまったからです。このように、風船のゴムにも非常に小さな穴が開います


ゴム風船にあいた小さな穴

ちなみに、手を放すと飛んで行ってしまう「ヘリウムガス」が入った風船を見たことがあるでしょうか?この風船は、息で膨らませた風船よりもしぼむのが早いです。その理由は「ヘリウム」の粒が空気の粒よりも小さいために、ゴムの穴を通り抜けやすいからです。

以上のお話で、肉眼では穴が開いていないように見える風船のゴムにも、実は小さな穴が開いているということを理解していただけたでしょうか?

生物にもいろいろな膜がある

あるものを覆い隔てているもののことを「膜」と呼びます。先ほどのゴム風船では、中の空気を覆っているゴムが膜にあたります。生物も様々な膜を持っています。とくに代表的なのは「細胞膜」と呼ばれるものです。

細胞とは、生物を構成する基本的な単位です。そして細胞膜とは、細胞の中に入っている水やDNAなどを覆っている膜のことです。ちなみに、細胞は小学校にあるような顕微鏡で見える程度のサイズですから、先ほどお話ししてきた水の粒に比べるとかなり大きいということになります。

この細胞の中と外では物質の移動があります。たとえばヒトが生きていくには酸素が必要ですが、赤血球によって運ばれた酸素は、この膜を通過して細胞に送り届けられます。一方で運搬役の赤血球は細胞の中に取り込まれることはありません。つまり、細胞膜にあいた穴が酸素と赤血球を仕分けているのです。

このように、ある物質は通すがある物質は通さない、というフィルターの働きをする膜を「半透膜(はんとうまく)」と呼びます

浸透圧が生じる理由

それではいよいよ浸透圧が生じる理由について説明しましょう。

※ 実験をしたい方へ
ここで用いる半透膜は、逆浸透膜のような細孔が非常に小さい膜や、細胞膜だと考えてください。セロハンではNa+やClは通り抜けてしまいます。

水だけの状態

浸透圧は細胞以外でも生じるのですから、ここではより一般化した図を使って説明します。この装置は、U字型の容器の中央を半透膜で仕切った形をしています。そのため、容器の右側の水と左側の水が半透膜で仕切られています。

まずはこのままで、何もしていない状態を考えてみましょう。

溶質を入れていない状態

この時、半透膜の左右で水の粒が行き来していますが、右から左に移動する水の粒と、左から右に移動する粒の数は同じです。したがって、全体として水はどちらにも流れていないように見えます。

これは浸透圧が生じていない状態です。



食塩を加えたとき

続いて、右側の水に食塩を入れた時を考えましょう。このとき、食塩の粒は、水に比べると非常に大きいことがポイントです(※ 大きくふるまうというのが正しい表現です。詳しくは後日記事を更新して解説します。)。

半透膜にあいた穴は、水の粒よりは大きいけれど、食塩の粒よりは小さいということに注目してください。つまり、水の粒はこの穴を通れるけれど、食塩の粒はこの穴を通ることが出来ません。

浸透圧が生じている状態

穴を通れない食塩の粒は、その穴をふさいでしまいます。よって、右から左に移動する水の粒の数は、左から右に移動する水の数よりも少なくなります。したがって、全体として、水は左から右に流れているように見えます。

このように、水の粒が半透膜で仕切られた一方の側から、もう一方の側に流れようとする現象を浸透とよびます。そして、このように水が移動する力こそが、浸透圧の正体です。(正確には水以外でも浸透は起こります。きちんとした定義は後日記事を更新して述べます。)

まとめ ~ 青菜に塩

以上の説明により、「青菜に塩」のときに起こる現象を説明することが出来ます。

まず、青菜はもとより、あらゆる生物には細胞膜が存在し、そこには水の粒がちょうど通れるくらい小さなサイズの穴が開いています。この細胞膜に食塩を振りかけると、細胞の外から中に入る水の粒よりも、中から外に出る水の粒の方が多くなります(浸透)。そのため細胞の中の水はどんどん外に出ていき、細胞はしぼんでしまいます。したがって、青菜全体がしおれてしまうのです。


次ページでは浸透圧の計算方法を説明しています。