ベクトルとは何か? - ベクトルの意味と使い方
もくじ
ベクトルとは?
ベクトルとは、向きと大きさを持つ量のことです。有向線分で表され、平面や空間上における力や速度、加速度などはベクトルで表されます。
ベクトルは向きと大きさを持つ量ですが、これに対して大きさだけを持つ量をスカラーといいます。スカラーの例には、個数や長さ、時間があります。
ここからは、ベクトルの基本的な意味とその表し方についてご説明します。次の「ベクトルの使い方」の項目では、この基本を踏まえて、ベクトルの利用方法を説明します。
ベクトルの書き表し方
まずは、ベクトルの書き表し方を説明します。下の矢印が有向線分を表しています。この矢印がベクトルの向きを意味し、長さがベクトルの大きさを意味しています。矢印の始まりを始点、終わりを終点といいます。
始点を A、終点を B とするベクトルを $\vec{\mathrm{AB}}$ と書き表し、「AB ベクトル」と読みます。また、このベクトル全体を $\vec{a}$ のように一つの文字で書き表すこともあります。
ベクトルの平行移動
ベクトルは有向線分の向きと大きさだけを意味していて、その位置は問題にしていません。よって、あるベクトルを平行移動しても、それは同じベクトルになります。
例えば、下の図の $\vec{\mathrm{AB}}$ と $\vec{\mathrm{CD}}$ は、ともに向きと大きさが同じなので、同じベクトルを意味します。すなわち、 $\vec{\mathrm{AB}}=\vec{\mathrm{CD}}$ と表せます。
ベクトルの成分表示
ベクトルは、(x 成分, y 成分)の形で成分表示をすることができます。例えば次のように、 xy 平面上で、x の正の方向(右)に 3 マス、y の正の方向(上)に 4 マス移動するベクトル $\vec{\mathrm{AB}}$ を $\vec{\mathrm{AB}}=(3,4)$ と書きます。
ここまで、「ベクトルの書き表し方」「ベクトルの平行移動」「ベクトルの成分表示」の 3 つの内容を説明しました。理解していただけたでしょうか?
ベクトルを使うと、このように向きと大きさの両方が伴った量を表すことができるのです。
続いてはこの内容をもとに、ベクトルがどのように利用されるのかをご説明します。
ベクトルの使い方
ここからは、具体例を通して、ベクトルの意味を説明します。
例として、次の図のように、水が左から右に流れている川を、船が下から上に渡ることを考えます。船の(静止した水に対する)速さが 4 m/s、川の速さが 3 m/s であるとしましょう。
この時、岸から見て船はどの方向に動くでしょうか?これをベクトルを使って考えていきたいと思います。
先に答えを言うと、この場合、船はまっすぐ上に進みません。船はまっすぐ上に進もうとしていますが、右に流れる川に流されて、実際は斜め右に動くのです。
それでは、ベクトルを使って考えてみましょう。いま、船が静止した水に対して動く速度を $\vec{\mathrm{a}}$、川が流れる速度を $\vec{\mathrm{b}}$ とします。これを図で示すと次のようになります。 $\vec{\mathrm{a}}$ と $\vec{\mathrm{b}}$ の大きさの比は 4 : 3 になっています。
ベクトルは向きと大きさの両方を意味していることに注目してください。
岸から見て船が動く速度は、船の速度 $\vec{\mathrm{a}}$ に、川の速度 $\vec{\mathrm{b}}$ を足し合わせたものになります。これをベクトルで表すと、$\vec{\mathrm{a}}+\vec{\mathrm{b}}$ となります。つまり、ベクトルどうしの単純な足し算として表せるのです。
では、ベクトルの足し算にはどのような意味があるのかを考えていきましょう。
ベクトルには「平行移動しても同じものである」という性質があることを先に説明しました。そこで、先ほどの図において、川の速度のベクトル $\vec{\mathrm{b}}$ を平行移動して、 $\vec{\mathrm{b}}$ の始点(矢印の始まり)を $\vec{\mathrm{a}}$ の終点(矢印の終わり)に合わせてみましょう。すると、次の図のようになります。
2 つのベクトルの足し算 $\vec{\mathrm{a}}+\vec{\mathrm{b}}$ は、下の図で $\vec{\mathrm{a}}$ の始点を始点とし、$\vec{\mathrm{b}}$ の終点を終点とするベクトルを意味しています。
つまり、$\vec{\mathrm{a}}+\vec{\mathrm{b}}$ は、下の図にオレンジ色の矢印で示したベクトルを意味しているのです。
これで、流れる川の上の船がどの方向に動くのかが分かりました。それは、上の図のオレンジ色のベクトルの向きです。
ここまでは、矢印を描くことで、ベクトルとその足し算の意味を説明しました。次に、ベクトルを成分表示して、船が進む向きと速さを数値で表しましょう。
まず、先ほどの図に x 軸と y 軸を設定します。図の右向きに x 軸の正の向きを、上向きに y 軸の正の向きを取りました。
船の速度 $\vec{\mathrm{a}}$ と川の速度 $\vec{\mathrm{b}}$ それぞれを成分表示してみましょう。ベクトルの成分表示は、(x 成分, y 成分)の形で表すことを思い出してください。
船が静止した水に対して動く速度は、y 軸の正の方向(上向き)に 4 m/s だったので、$\vec{\mathrm{a}}=(0,4)$ と表します。一方、川の速度は、x 軸の正の方向(右向き)に 3 m/s だったので、これを $\vec{\mathrm{b}}=(3,0)$ と表します。
船が実際に動く速度ベクトルは、これらの和 $\vec{\mathrm{a}}+\vec{\mathrm{b}}$ でした。これを成分で表す時は、x 成分どうし、y 成分どうしを足し合わせればよいです。つまり、
\begin{align*} \vec{\mathrm{a}}+\vec{\mathrm{b}} &= (0,4) + (3,0) \\[5pt] &= (0+3,\,4+0) \\[5pt] &= (3,4) \end{align*}
と表せます。これが、岸から見た船の速度ベクトルです。
岸から見たときに船が移動する速度ベクトル $\vec{\mathrm{a}}+\vec{\mathrm{b}} =(3,4)$ の大きさは、三平方の定理を利用して求めることができます。下の図で三平方の定理を用いて、ベクトルの大きさを求めてみましょう。
$\vec{\mathrm{a}}+\vec{\mathrm{b}}$ の大きさは、これに絶対値記号を付けて $|\vec{\mathrm{a}}+\vec{\mathrm{b}}|$ と書き表します。これを求めるには、上の直角三角形で三平方の定理を用いて
\begin{align*} |\vec{\mathrm{a}}+\vec{\mathrm{b}}| &= \sqrt{3^2+4^2} \\[5pt] &= \sqrt{25} \\[5pt] &= 5 \end{align*}
よって、岸から見たときに船が動いて見える速さは、5 m/s であることが分かりました。
また、その進む向きはベクトルの向きですが、この具体的な角度を三角関数を使って求めることができます。上の図に示した角度 $\theta$ を、三角関数を使って表すと $\tan\theta = \frac{4}{3}$ を満たす角度ということになります。この角度は、逆三角関数 arctan(これは大学で習います)を使って、関数電卓で計算すると、次のようになります。
\begin{align*} \theta &= \arctan \frac{4}{3} \\[5pt] &\approx 53.1^\circ \end{align*}
よって、船は x 軸の正の向きから約 53.1° の向きに進むということが分かりました。
このページでは、ベクトルの基本的な内容に絞って説明しました。ベクトルの意味と使い方を理解していただけたでしょうか?このように、向きと大きさを意味する「ベクトル」を使うことで、向きと大きさの両方を持った「力」や「速度」などを扱えるようになるのです!