なぜ融点や沸点は物質によって違うのか?
ものが融けるときの温度「融点」や、沸騰するときの温度「沸点」は物質により違います。そのような違いが生じる理由を、物質を作る「粒」の性質から説明してみましょう。
小~中学生レベルでは、原子や分子を身近な「磁石」に例えて解説しています。高校生レベルではより「原子」や「分子」を意識した解説をします。
この記事のレベル(目安)
小~中学生レベル
身の回りにある物質、たとえば水をどんどん細かく分けていたらどうなるでしょうか?答えは、「ある大きさの粒」になります。これをそれ以上細かくすることもできるのですが、細かくしすぎると、もはや「水」としての性質はなくなります。
このページでは、「水」としての性質を持つ最小の「粒」の視点で、物質の「状態変化」について考えてみましょう。
状態変化とは?
状態変化とは、物質が固体・液体・気体の3つの状態のどれかからどれかへ変化することを言います。
水の場合、それぞれの状態には特別な名前が付けられています。固体の状態を「氷」、液体の状態を「水」、気体の状態を「水蒸気」と言っています。そして、固体(氷)から液体(水)になることを「融解」といい、その時の温度(0℃)を融点といいます。また、液体(水)から気体(水蒸気)になることを「沸騰(または蒸発)」といい、その時の温度(100℃)を沸点といいます。
それでは、物質を作るもとである「粒」のレベルでこの3つの状態を考えてみましょう。
固体とは、粒の位置が互いに入れ替わらない状態のことを言います。たとえば、氷の上に砂糖を振りかけても、砂糖は氷の表面にのっているだけで氷の中には入っていきません。それは、水の粒がぎっしりとつまって位置が動かない「固体」の状態だからです。
液体とは、粒どうしがくっつきながらその位置が入れ替われる状態です。液体の水に砂糖を振りかけると、その砂糖は水の中に沈んでいきます。それは水の粒が動いている「液体」の状態であり、それと一緒に、砂糖の粒も水の中へと引き込まれるからです。
気体とは、粒どうしが離れている状態です。その体積は固体や液体のときよりも非常に大きくなります。たとえば、水蒸気の体積は、液体の水の体積の1700倍になります。
ここで最も大事なのは、(一般的に)固体→液体→気体となるにつれて、粒と粒が離れていくということです。つまり、最も粒同士が密集しているのが固体、ちょっと離れているのが液体、非常に離れているのが気体の状態です。これさえ理解していれば、このページのテーマである、物質による沸点や融点の違いを説明できます。
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ちなみに、(水を除く)一般的な物質では固体の密度が最も高く、液体、気体となるにつれて密度は小さくなります。それはつまり、粒同士の距離が離れて、単位体積当たりの粒の数が減少することと同等です。
磁石に働く力と電気に働く力
磁石にはたらく力
みなさんは磁石を使ったことがあるでしょうか?学校の黒板に紙を留めるときに使ったことがあるのではないでしょうか?理科の学習で、砂鉄集めや、電磁誘導の実験に使った人もいるかもしれませんね。
磁石のN極とS極は互いにひきつけあい、N極とN極 や S極とS極 同士はしりぞけあいます。このときの力の大きさについて考えてみましょう。もしおうちに磁石があれば、実験してみてください。ここではN極とS極がひきつけあう場合を考えていきます。
まず、2つの磁石を遠く離しておきましょう。机の上に置いた2つの磁石は、ある程度離しておいておけば、くっつくことはないはずです。この2つの磁石の間で互いにひきつけあう力は「生じている」のですが、非常に弱い力であるため、机の上を滑らせることはできません。
次に2つの磁石を両手で持ちながら、N極とS極を少しづつ近づけていきましょう。すると、距離が数cmになったところで磁石が引き合うのを感じられると思います。もっと近づけてみましょう!両手の力で、2つの磁石の隙間を1mmくらいに保つことはできますか?磁石の強さにもよりますが、これはかなり難しいと思います。つまり、磁石は非常に強く引き合っているということです。
この実験から分かることは、「磁石と磁石の距離が近いほど、ひきつけあう力は大きい」ということです。
もう一つ別の実験として、磁石の強さを変えてみましょう。今回は磁石と磁石の間の距離は変えずに一定に保ちます。
小学校の実験でよく用いられる「フェライト磁石」は比較的弱い磁石です。一方でスマホのバイブレーションのためについている小型モーターの多くには「ネオジム磁石」という強力な磁石が使われています。スマホは小型化をするために、小さくても大きな力を出せる、強力な磁石を使っているのです。
「強力」な磁石はその名の通り、強い力を生じます。つまり、弱い磁石のN極とS極を向い合せたときと比べて、強い磁石のN極とS極を向い合せたときにはより大きな力でひきつけあうということです。
さて、これまでの内容をまとめると、磁石どうしは、N極とS極の距離が近いほど、また磁石が強力であるほど、ひきつけあう力は大きいということが分かりました。
静電気に働く力
磁石に働く力と同じ関係が、静電気に働く力についても言えます。静電気に働く力とは、例えば、髪の毛を下敷きでこすったら、髪の毛が下敷きにひきつけられる時の力のことです。
この時髪の毛が+の電気をおびて、下敷きは-の電気を帯びています。この+と-の電気はお互いにひきつけあいます。また、+と+、-と-の電気はそれぞれしりぞけあいます。これは磁石の実験でみたN極とS極の関係と全く同じですね。
さらに力の大きさについての性質も磁石と同じで、電気どうしは、+と-の距離が近いほど、また+や-の電気が強力であるほど、ひきつけあう力は大きい。という関係も同じであることが分かっています。
物質に働く力と融点・沸点
ここまでの内容がクリアできていれば、物質が融ける温度や沸騰する温度に違いが生じる理由が理解できます。
物質を作っている粒には、上で説明した通りの「静電気」がほんのいくらか溜まっています。溜まっている、というよりは、1つの粒の中で+の部分と-の部分が出来ているといういい方が正確です。この時のプラスの大きさと-の大きさが物質の融点を決めている大きな要因です。
つまり、粒の中の+や-の偏りが大きければ、それだけ粒どうしは強く引きつけ合います。この力に逆らって、粒どうしが離れているには、より粒が激しく動こうとしなくてはなりません。その粒の運動の激しさこそが「温度」であり、温度を上げるためにはエネルギーが必要なのです。
具体的に、酸素、水、食塩という3つの身近な例を用いて説明します。
空気中の約21パーセントは酸素が占めています。この酸素は粒の中で静電気の偏りが全然ありません。そのため、粒どうしにはたらく力は弱く、低い温度でも粒どうしはばらばらになります。したがって沸点は非常に低く、常温では粒どうしが離れた状態、つまり気体として存在します。
次に水を見てみましょう。水は粒の中に静電気の偏りがややあります。そのため、粒同士は+の部分と-の部分が引き合って、少しくっつこうとしています。したがって、粒どうしを引き離すのには少しエネルギーが必要であり、先ほどの酸素より融点や沸点が高くなっています。常温(25℃)では液体ですね。
最後に食塩を見てみましょう。普段家で使うときは塩(しお)といっていると思いますが、理科の用語では食塩(しょくえん)というのが正しいです。食塩は粒の中で非常に大きな静電気の偏りがあります(これは誤解を生みかねない表現です。正確に学びたい方は、高校生レベルを読んでください。)。そのため、粒同士は非常に強く引きつけ合って、なかなか離れようとしません。したがって食塩の融点は高く、800℃にならないと融けません。蒸発させるには1413℃もの高温が必要です。
以上で小~中学生向けの説明を終わります。ここまでの話をまとめましょう。粒の中に存在する+や-の静電気の偏りが大きいほど粒同士は強く引き合うので、それを引き離すには大きな力が必要です。そして、大きな力を生むには高い温度が必要であるということになります。粒同士に働く力と、融点・沸点との関係を理解していただけたでしょうか?
高校生向けでは粒と粒の距離に注目した具体例も出しますので、もっと知りたいという方は、ぜひ読んでください。
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