絶対値の意味と性質、計算方法

絶対値は、その使われ方に応じていくつかの意味があります。最も一般的に利用されるのは実数に対する絶対値です。これは、実数 a が a ≧ 0 ならば a そのものを、a < 0 ならば a の符号を変えた -a のことを言い、記号を使って |a| と書きます。

実数の絶対値の定義

\begin{align*} |a| = \begin{cases} a \ & (a\geqq 0) \\ -a \ & (a\lt 0) \end{cases} \end{align*}

このページの続きでは、実数に対する絶対値の意味性質計算方法を詳しく説明しています。

また、絶対値は実数以外にも、複素数ベクトルに対しても定義されます。

複素数 $z = a + bi$ ($a,b$ は実数)に対して、その絶対値は $|z| = \sqrt{a^2+b^2}$ と定義されます。ベクトルに対しては、ベクトルの長さをベクトルの絶対値ということがあります。



もくじ

  1. 実数の絶対値
    1. 絶対値の意味
    2. 絶対値の性質
    3. 絶対値を含む式の計算方法
  2. 複素数の絶対値
  3. ベクトルの絶対値

実数の絶対値

絶対値が一般によく用いられるのは、実数に対してです。ここでは、実数の絶対値の意味・定義性質、そして絶対値を含む式の計算方法をご説明しています。

絶対値の意味

実数に対する絶対値は、次のように定義されます。

実数の絶対値の定義

\begin{align*} |a| = \begin{cases} a \ & (a\geqq 0) \\ -a \ & (a\lt 0) \end{cases} \end{align*}

この意味は、絶対値 |a| が、実数 a が a ≧ 0 ならば a そのものを、a < 0 ならば a のマイナス符号をプラス符号に変えた -a になることを表しています。

絶対値記号を外した例を、いくつか下に示します。

\begin{align*} |3|&=3 \\[5pt] |0|&= 0 \\[5pt] |-2|&=2 \end{align*}

上の例のように、絶対値記号 | | の中の数が 0 以上の数の場合は、そのまま絶対値記号を外すだけでいいです。

絶対値記号の中の数が負の数の場合(上の例では |-2|)の場合は、マイナス符号を外して 2 とします。上に示した定義で、a < 0 のとき -a としているのは、絶対値記号の中の数に -1 掛けることでそのマイナス符号をプラス符号に変えるという意味があるのです(例:-(-2) = 2)。


中学生の段階では、数直線上のある点の、原点からの距離を絶対値と習うことが多いでしょう。「距離」は正の数であることに注意して、下の数直線を見てください。

|-2|と|3|の数直線上の位置
|-2|と|3|の数直線上の位置

原点から (+)3 までの距離は 3 なので、|3| = 3 となり、原点から -2 までの距離は 2 なので、|-2| = 2 となります。

絶対値の性質

絶対値には次の性質があります。

$a,\,b$ を実数としたとき

\begin{align*} |a| &\geqq 0, \quad |a| = 0\,\text{となるのは}\,a=0\,\text{のときに限る}\\[5pt] |-a|&=|a| \\[5pt] |a|^2 &=a^2 \\[5pt] |ab|&=|a||b| \\[5pt] \left|\frac{a}{b}\right| &= \frac{|a|}{|b|} ,\quad \text{ただし、}\,b\neq0 \end{align*}

例として、上から4つ目の式を確認してみましょう。

$a=2,\,b=-3$ としたとき、

\begin{align*} |ab| &= |2\times(-3)| \\[5pt] &= |- 6| \\[5pt] &= 6 \end{align*}

であり、

\begin{align*} |a||b| &= |2||-3| \\[5pt] &= 2\times 3 \\[5pt] &= 6 \end{align*}

以上より、絶対値の性質 $|ab|=|a||b|$ を満たしていることが確認できました。

絶対値を含む式の計算方法

ここでは、絶対値を含む式の計算方法を、例題と共に 3 パターンご紹介します。

絶対値の外し方

$|-5+2|$ を計算せよ。

絶対値を外す単純な問題です。まず、絶対値記号の中の数を先に計算します。次に、絶対値記号の中の数が正であればそのまま絶対値記号を外し、負であれば -1 を掛けて正の数に変えて絶対値記号を外します。

\begin{align*} |-5+2| &= |-3| \\[5pt] &= 3 \end{align*}

この問題では、絶対値記号の中の数を計算すると |-3| となりました。絶対値記号の中の数 -3 が負の数なので、これに -1 を掛けて正の数 3 にします。


もう一つ、同じような問題を解いてみましょう。

$|1-\sqrt{3}|$ を計算せよ。

似た問題ですが、今回はルートが含まれているため、絶対値記号の中の項をまとめて一つの項にすることができません。絶対値記号を外すには、その中の数が正か負のどちらであるかを知る必要があるので、これを考えましょう。

$\sqrt{3} = 1.73\cdots$ であることはよく知られているので、これを使えば、$1-\sqrt{3} = 1-1.73\cdots$ が負の数であることが分かりますね。

もう少し丁寧に、不等式を使って示すと、次のようになります。

\begin{align*} \sqrt{1} &\lt \sqrt{3} \\[5pt] \text{より} \\[5pt] 1&\lt \sqrt{3} \\[5pt] -1 &\gt -\sqrt{3} \\[5pt] 0 &\gt 1-\sqrt{3} \\[5pt] \end{align*}

よって、$1-\sqrt{3}$ が負の数であることが分かりました。絶対値記号を外すには、その中の数に -1 を掛けて正の数に変えます。

\begin{align*} |1-\sqrt{3}| &= -(1-\sqrt{3}) \\[5pt] &= \sqrt{3}-1 \end{align*}

となります。

絶対値記号を含む方程式

絶対値と含む方程式には、次のことが成り立ちます。

$a\gt0$ のとき

\begin{align*} |x|= a &\Longleftrightarrow x = \pm a \end{align*}

それでは、次の問題を考えてみましょう。

$|x| = 3$ を満たす実数 $x$ を求めよ。

絶対値を取ってある正の数になるものは、その数自身と、それにマイナス符号を付けたものの 2 つがあります。

絶対値を取ると 3 となる実数 $x$ を求めます。3 > 0 なので、正の数と負の数の 2 つの答えがあり、今回の問題では、$x = 3$ と $x=-3$ が答えとなります。

|x|=3 を満たす点の数直線上の位置
|x|=3 を満たす点の数直線上の位置

もう1問解いてみましょう。

$|x-2| = 5$ を満たす実数 $x$ を求めよ。

この方程式の解は、

\[ x-2 = \pm 5 \]

より、

\[ x=7,\,-3\]

となります。

絶対値記号を含む不等式

絶対値記号を含む不等式を解いてみましょう。絶対値を含む不等式には、次のことが成り立ちます。

$a\gt0$ のとき

\begin{align*} |x|\lt a &\Longleftrightarrow -a\lt x\lt a \\[5pt] |x|\gt a &\Longleftrightarrow x\lt-a \, \text{または} \, x\gt a \\[5pt] \end{align*}

絶対値を含む不等式の数直線上の領域
絶対値を含む不等式の数直線上の領域

絶対値が入った不等式の問題を解いてみましょう。

不等式 $|x-2|\lt 3$ を解け。

\begin{align*} -3 \lt x-2 \lt 3 \\[5pt] \end{align*}

より、

\begin{align*} -1 \lt x \lt 5 \\[5pt] \end{align*}

となります。

複素数の絶対値

複素数に対す絶対値は、次のように定義されます。

複素数 $z=a+bi$ に対して、

\begin{align*} |z|=\sqrt{a^2+b^2} \end{align*}

複素数の絶対値は、複素平面における原点からの距離を表しています。

ベクトルの絶対値

ベクトルの絶対値は、ベクトルの大きさを表します。例えば、$\vec{a}$ の大きさを $|\vec{a}|$ と表します。

$|\vec{a}| $ は内積を用いて次のように表されます。

\[ |\vec{a}|=\sqrt{\vec{a}\cdot\vec{a}} \]

2次元、および3次元の成分表示されたベクトルの大きさは、それぞれ次のように求められます。

$|\vec{a}|=(x,y)$ のとき \[ |\vec{a}|=\sqrt{x^2+y^2} \]

$|\vec{a}|=(x,y,z)$ のとき \[ |\vec{a}|=\sqrt{x^2+y^2+z^2} \]