タンジェントとは何か? - 中学生でも分かる三角関数の基礎

タンジェントとは、直角三角形の1つの鋭角に対する、底辺と対辺の比のことです。

と、言われてもなかなかイメージできないと思うので、下の図を見てみましょう。

直角三角形 ABC(∠A に注目!)
直角三角形 ABC(∠A に注目!)

\[ \tan A = \frac{\mathrm{BC}}{\mathrm{AC}} \]

上の三角形は、角 C を直角とする直角三角形です。このとき、辺の比 $\frac{\mathrm{BC}}{\mathrm{AC}}$ を角 A のタンジェントといい、$\tan A$ と書きます。

\[ \tan A = \frac{\mathrm{BC}}{\mathrm{AC}} \]

それでは、タンジェントにはどのような性質があるのでしょうか?そして、どのように利用できるのでしょうか?このページでは、中学3年の「三平方の定理」で学んだ 30°、45°、60°の代表角を持つ2種類の三角形を使って説明していきます。



もくじ

  1. タンジェントとは
    1. タンジェントの定義
    2. 代表的な角度に対するタンジェントの値
    3. タンジェントの利用方法
  2. 一般角への拡張
  3. タンジェントの公式
    1. 基本公式
    2. 微分・積分
  4. タンジェントの表

タンジェントとは

タンジェントの定義

タンジェントは、サイン(sin)、コサイン(cos)と並ぶ三角関数の一つです。日本語では「正接」といいます。

前述の通り、タンジェントの定義は次のように表されます。

直角三角形 ABC(∠A に注目!)
直角三角形 ABC(∠A に注目!)

\[ \tan A = \frac{\mathrm{BC}}{\mathrm{AC}} \]

これは定義なので、そういうもの、と納得してもらうしかありません…。記号の読み方は、そのまま「タンジェント エー」です。

タンジェントの意味は、中学3年で学習する「相似」とつながっています。相似な図形同士は、対応する角の大きさは同じで、対応する辺の比は一定でした。

相似な図形の対応する「角」や「辺の比」は一定である
相似な図形の対応する「角」や「辺の比」は一定である

つまり、上の図の角 A が同じなら、AC と BC の比は常に一定なのですね。この比の値を、角 A の大きさと関連付けて考えるのが、タンジェントなのです。

では、三角定規に使われている代表的な2種類の三角形から、30°、45°、60° のタンジェントの値を求めてみましょう!

代表的な角度に対するタンジェントの値

ここでは、特別な2つの三角形について、そのタンジェントの値を求めてみます。特別な三角形とは、小学校で使う2種類の三角定規になっている三角形です。

最初は、下の直角二等辺三角形を見てみましょう!これから、$ \tan 45^\circ $ を求めることができます。

等辺の長さが 1 の直角二等辺三角形
等辺の長さが 1 の直角二等辺三角形

二等辺三角形なので、2つの等辺の長さは等しいですね。この長さを 1 とします。そして、二等辺三角形の2つの底角の大きさは等しいので、図の左下の角は 45° であることが分かります。

三角形は、先ほどの「定義」の図と同じ向きになるよう、直角を右下に、注目する 45° の角を左下にしました。このように向きをそろえて見ることが大事です。

あとは、先ほどのタンジェントの定義の図と式に当てはめながら、これらの値を代入してみます!

\[ \tan 45^\circ = \frac{\mathrm{BC}}{\mathrm{AC}}= \frac{1}{1} = 1 \]

はい!でき上がりです!タンジェント 45° は 1 と求まりました!簡単ですね…!


では続いて、三角定規に使われているもう一つの三角形について考えましょう。この三角形からは、$ \tan 60^\circ $ と $ \tan 30^\circ $ の値を得ることが出来ます。

30°、60°、90° の角を持つ直角三角形(60°の角に注目!)
30°、60°、90° の角を持つ直角三角形(60°の角に注目!)

この三角形の3つの角の大きさは 30°、60°、90° でしたね。そして3辺の長さの比は、三平方の定理を使って求めることができ、図のように $1:2:\sqrt{3}$ であることが分かっています。

(三辺の比の求め方:この三角形は、正三角形をその頂角の二等分線で半分にした図形です。正三角形の一辺の長さ $\mathrm{AB}=2$ とすると、底辺は二等分されたので $\mathrm{AC}=1 $ となります。最後に三平方の定理より、$\mathrm{BC}=\sqrt{\mathrm{AB}^2-\mathrm{AC}^2}=\sqrt{3}$ と求まります)

それでは、この三角形をさきほどの「定義」と同じ向きで置いて、タンジェントの値を求めます。

30°、60°、90° の角を持つ直角三角形(60°の角に注目!)
30°、60°、90° の角を持つ直角三角形(60°の角に注目!)

上の図では、60° の角が左下になるように置きました。この時のタンジェントの値は、次のように求まります。

\[ \tan 60^\circ = \frac{\mathrm{BC}}{\mathrm{AC}} = \frac{\sqrt{3}}{1} \approx 1.732 \]

なるほど、なるほど。では、30° の角が左下になるように置いたらどうでしょうか?

30°、60°、90° の角を持つ直角三角形(30°の角に注目!)
30°、60°、90° の角を持つ直角三角形(30°の角に注目!)

定義の図と見合わせてみると、

\[ \tan 30^\circ = \frac{\mathrm{AC}}{\mathrm{BC}}= \frac{1}{\sqrt{3}} \approx 0.5774 \]

ですね。

以上3つが、タンジェントの代表的な値です。意外と簡単に求められましたね…?

今計算した、代表角に対するタンジェントの値をまとめると

\begin{align*} \tan 30^\circ &= \frac{1}{\sqrt{3}} \\[5pt] \tan 45^\circ &= 1 \\[5pt] \tan 60^\circ &= \sqrt{3} \\[5pt] \end{align*}

となります。


…そして実は、高校生になって三角関数を勉強した後でも、覚えるべきタンジェントの値は、この3つだけなのです!ここで用いた2つの三角形は、中学3年の「三平方の定理」のところで勉強しているので、パッとイメージすれば、すぐに分かりますよね?

ちなみに、代表角 30°、45°、60° を倍にした角度や半分にした角度のタンジェントの値は、公式を使って計算することが出来ます。そして、もっともっと細かい角度に対しても、すでに計算結果があります。例えば 1° 単位のタンジェントの値は、このページ下の「タンジェントの表」に載せています(実用面では計算機が計算してくれるので、表を使う場面はないと思うけど)。

では、このようにして求めたタンジェントの値が、実用面ではどのように用いられるのかを、ご紹介します。

タンジェントの利用方法

ここでは、高い木の高さを求めたい!という場合を考えてみましょう。高い木に登ってメジャーを垂らすのは大変なので、地上からタンジェントの値を利用して求めることにします。そんなことが、できるんです。

例えば、木からの水平距離が 5m の位置(← これは自分で測る)から木の頂点を見え上げたときの仰角(ぎょうかく、図の∠A)が、52° だったとします。

これを先ほどのタンジェントの式に代入すると、

\[ \tan 52^\circ = \frac{\mathrm{AC}}{\mathrm{BC}} = \frac{\mathrm{AC}}{5} \]

この式より

\[ \mathrm{AC} = 5\tan 52^\circ \]

となります。ところで、$\tan 52^\circ $ の値というのはすでに求まっていて、約 1.28 です(タンジェントの表も参照)。上の式にこの値を代入すると

\[ \mathrm{AC} = 5\times 1.28 = 6.4 \,\textrm{[m]} \]

と求めることができました。これで、木に登らなくても安全に高さを求められましたね。


そんな正確に角度を求められるの…と疑問に思われるかもしれませんが、機械を使えばそれは可能です。

実際、このような作業は、工事現場でよくみられる「測量」で行われています。工事現場にはよく、赤と白の棒を持った人を望遠鏡でのぞいている人がいますよね?あれです。

測量機には距離と角度を正確に測る機能が備わっているので、今と同じ手法で、建物などの高さを測っているのです!

→ 参考「測量機のはたらき

一般角への拡張

上の定義では、三角形に対してタンジェントを定義しましたが、実はもっと話を広げられます。…ということを簡単にお話ししますね。

三角形の内角の和は 180° であり、直角三角形の一つの角は 90° なので、残りの角は 0° より大きく、90° より小さい角度しか取れません。

ですが、タンジェントに用いる角度は、この範囲に限られていません。90° より大きい角度にもタンジェントの値はあるし、負の角度に対するタンジェントも存在するのです。

このような「一般角に対する」タンジェントの定義は、次の通りです。

座標平面上に、原点 $\mathrm{O}$ を中心とする半径 $r$ の円を描く。$x$ 軸の正の部分を始線として、角 $\theta$ の動径と円 $\mathrm{O}$ との交点の座標を $\mathrm{P}(x,y)$ としたとき、タンジェントを次のように定義する。

\[ \tan \theta = \frac{y}{x} \]

ただし、$x=0$ となるような $\theta$ に対して、$ \tan \theta $ は定義されない。

タンジェントの定義
タンジェントの定義

ここでは、この程度の解説にしておきましょう。

タンジェントの公式

基本的な公式

定義はそれほど難しくないタンジェントですが、サイン(sin)やコサイン(cos)といった、他の三角関数と結びつきながら、様々な関係式を得ることが出来ます。

ここでは、タンジェント(tan)に関する公式を一覧で紹介しています。

三角関数の相互関係

\begin{align*} \tan \theta &= \frac{\sin \theta}{\cos \theta} \\[5pt] 1+\tan^2 \theta &= \frac{1}{\cos^2 \theta} \\[5pt] \end{align*}

様々な角度に対する関係式

\begin{align*} \tan (-\theta) &= -\tan \theta \\[5pt] \tan \left(\theta + \frac{\pi}{2} \right) &= -\frac{1}{\tan \theta} \\[5pt] \tan \left(\frac{\pi}{2} -\theta \right) &= \frac{1}{\tan \theta} \\[5pt] \tan \left(\theta + \pi \right) &= \tan \theta \\[5pt] \tan (\pi - \theta) &= -\tan \theta \\[5pt] \tan (\theta + 2n\pi ) &= \tan \theta \\[5pt] \end{align*}

加法定理、倍角の公式、半角の公式

\begin{align*} \tan \left( \alpha +\beta \right) &= \frac{\tan \alpha + \tan \beta}{1- \tan \alpha \tan \beta} \\[5pt] \tan \left( \alpha - \beta \right) &= \frac{\tan \alpha - \tan \beta}{1+ \tan \alpha \tan \beta} \\[5pt] \tan 2\alpha &= \frac{2\tan \alpha}{1- \tan^2 \alpha} \\[5pt] \tan^2 \left( \frac{\alpha}{2} \right) &= \frac{1-\cos \alpha}{1+ \cos \alpha} \\[5pt] \end{align*}

直線の式がなす角

互いに垂直でない2直線

\[ y=m_1x+n_1, \quad y=m_2x+n_2 \]

のなす角を $\theta$ として

\[ \tan \theta = \frac{m_1-m_2}{1+m_1m_2} \]

微分・積分

タンジェントの微分・積分は次のようになります。

\begin{align*} (\tan x)' &= \frac{1}{\cos^2 x} \\[5pt] \left(\frac{1}{\tan x}\right)' &= - \frac{1}{\sin^2 x} \\[5pt] \int \tan x \,dx &= -\log|\cos x| + C \\[5pt] \int \frac{1}{\tan x} \,dx &= \log|\sin x| + C \\[5pt] \end{align*}

タンジェントの表

ここでは、タンジェントの値を 0° から 89° まで 1° 刻みで、小数第4位まで表にまとめています。

表にしましたが、数学を学習するうえで、これらの数値を使うことはまずありません… 3つの代表角 30°、45°、60° に対するタンジェントの値を覚えておけば、それで十分ですよ。

タンジェント(正接)の表
角度正接(tan)
0.0000
0.0175
0.0349
0.0524
0.0699
0.0875
0.1051
0.1228
0.1405
0.1584
10°0.1763
11°0.1944
12°0.2126
13°0.2309
14°0.2493
15°0.2679
16°0.2867
17°0.3057
18°0.3249
19°0.3443
20°0.3640
21°0.3839
22°0.4040
23°0.4245
24°0.4452
25°0.4663
26°0.4877
27°0.5095
28°0.5317
29°0.5543
30°0.5774
31°0.6009
32°0.6249
33°0.6494
34°0.6745
35°0.7002
36°0.7265
37°0.7536
38°0.7813
39°0.8098
40°0.8391
41°0.8693
42°0.9004
43°0.9325
44°0.9657
45°1.0000
46°1.0355
47°1.0724
48°1.1106
49°1.1504
50°1.1918
51°1.2349
52°1.2799
53°1.3270
54°1.3764
55°1.4281
56°1.4826
57°1.5399
58°1.6003
59°1.6643
60°1.7321
61°1.8040
62°1.8807
63°1.9626
64°2.0503
65°2.1445
66°2.2460
67°2.3559
68°2.4751
69°2.6051
70°2.7475
71°2.9042
72°3.0777
73°3.2709
74°3.4874
75°3.7321
76°4.0108
77°4.3315
78°4.7046
79°5.1446
80°5.6713
81°6.3138
82°7.1154
83°8.1443
84°9.5144
85°11.4301
86°14.3007
87°19.0811
88°28.6363
89°57.2900
90°-