タンジェントとは何か? - 中学生でも分かる三角関数の基礎
タンジェントとは、直角三角形の1つの鋭角に対する、底辺と対辺の比のことです。
と、言われてもなかなかイメージできないと思うので、下の図を見てみましょう。
\[ \tan A = \frac{\mathrm{BC}}{\mathrm{AC}} \]
上の三角形は、角 C を直角とする直角三角形です。このとき、辺の比 $\frac{\mathrm{BC}}{\mathrm{AC}}$ を角 A のタンジェントといい、$\tan A$ と書きます。
\[ \tan A = \frac{\mathrm{BC}}{\mathrm{AC}} \]
それでは、タンジェントにはどのような性質があるのでしょうか?そして、どのように利用できるのでしょうか?このページでは、中学3年の「三平方の定理」で学んだ 30°、45°、60°の代表角を持つ2種類の三角形を使って説明していきます。
もくじ
タンジェントとは
タンジェントの定義
タンジェントは、サイン(sin)、コサイン(cos)と並ぶ三角関数の一つです。日本語では「正接」といいます。
前述の通り、タンジェントの定義は次のように表されます。
\[ \tan A = \frac{\mathrm{BC}}{\mathrm{AC}} \]
これは定義なので、そういうもの、と納得してもらうしかありません…。記号の読み方は、そのまま「タンジェント エー」です。
タンジェントの意味は、中学3年で学習する「相似」とつながっています。相似な図形同士は、対応する角の大きさは同じで、対応する辺の比は一定でした。
つまり、上の図の角 A が同じなら、AC と BC の比は常に一定なのですね。この比の値を、角 A の大きさと関連付けて考えるのが、タンジェントなのです。
では、三角定規に使われている代表的な2種類の三角形から、30°、45°、60° のタンジェントの値を求めてみましょう!
代表的な角度に対するタンジェントの値
ここでは、特別な2つの三角形について、そのタンジェントの値を求めてみます。特別な三角形とは、小学校で使う2種類の三角定規になっている三角形です。
最初は、下の直角二等辺三角形を見てみましょう!これから、$ \tan 45^\circ $ を求めることができます。
二等辺三角形なので、2つの等辺の長さは等しいですね。この長さを 1 とします。そして、二等辺三角形の2つの底角の大きさは等しいので、図の左下の角は 45° であることが分かります。
三角形は、先ほどの「定義」の図と同じ向きになるよう、直角を右下に、注目する 45° の角を左下にしました。このように向きをそろえて見ることが大事です。
あとは、先ほどのタンジェントの定義の図と式に当てはめながら、これらの値を代入してみます!
\[ \tan 45^\circ = \frac{\mathrm{BC}}{\mathrm{AC}}= \frac{1}{1} = 1 \]
はい!でき上がりです!タンジェント 45° は 1 と求まりました!簡単ですね…!
では続いて、三角定規に使われているもう一つの三角形について考えましょう。この三角形からは、$ \tan 60^\circ $ と $ \tan 30^\circ $ の値を得ることが出来ます。
この三角形の3つの角の大きさは 30°、60°、90° でしたね。そして3辺の長さの比は、三平方の定理を使って求めることができ、図のように $1:2:\sqrt{3}$ であることが分かっています。
(三辺の比の求め方:この三角形は、正三角形をその頂角の二等分線で半分にした図形です。正三角形の一辺の長さ $\mathrm{AB}=2$ とすると、底辺は二等分されたので $\mathrm{AC}=1 $ となります。最後に三平方の定理より、$\mathrm{BC}=\sqrt{\mathrm{AB}^2-\mathrm{AC}^2}=\sqrt{3}$ と求まります)
それでは、この三角形をさきほどの「定義」と同じ向きで置いて、タンジェントの値を求めます。
上の図では、60° の角が左下になるように置きました。この時のタンジェントの値は、次のように求まります。
\[ \tan 60^\circ = \frac{\mathrm{BC}}{\mathrm{AC}} = \frac{\sqrt{3}}{1} \approx 1.732 \]
なるほど、なるほど。では、30° の角が左下になるように置いたらどうでしょうか?
定義の図と見合わせてみると、
\[ \tan 30^\circ = \frac{\mathrm{AC}}{\mathrm{BC}}= \frac{1}{\sqrt{3}} \approx 0.5774 \]
ですね。
以上3つが、タンジェントの代表的な値です。意外と簡単に求められましたね…?
今計算した、代表角に対するタンジェントの値をまとめると
\begin{align*} \tan 30^\circ &= \frac{1}{\sqrt{3}} \\[5pt] \tan 45^\circ &= 1 \\[5pt] \tan 60^\circ &= \sqrt{3} \\[5pt] \end{align*}
となります。
…そして実は、高校生になって三角関数を勉強した後でも、覚えるべきタンジェントの値は、この3つだけなのです!ここで用いた2つの三角形は、中学3年の「三平方の定理」のところで勉強しているので、パッとイメージすれば、すぐに分かりますよね?
ちなみに、代表角 30°、45°、60° を倍にした角度や半分にした角度のタンジェントの値は、公式を使って計算することが出来ます。そして、もっともっと細かい角度に対しても、すでに計算結果があります。例えば 1° 単位のタンジェントの値は、このページ下の「タンジェントの表」に載せています(実用面では計算機が計算してくれるので、表を使う場面はないと思うけど)。
では、このようにして求めたタンジェントの値が、実用面ではどのように用いられるのかを、ご紹介します。
タンジェントの利用方法
ここでは、高い木の高さを求めたい!という場合を考えてみましょう。高い木に登ってメジャーを垂らすのは大変なので、地上からタンジェントの値を利用して求めることにします。そんなことが、できるんです。
例えば、木からの水平距離が 5m の位置(← これは自分で測る)から木の頂点を見え上げたときの仰角(ぎょうかく、図の∠A)が、52° だったとします。
これを先ほどのタンジェントの式に代入すると、
\[ \tan 52^\circ = \frac{\mathrm{AC}}{\mathrm{BC}} = \frac{\mathrm{AC}}{5} \]
この式より
\[ \mathrm{AC} = 5\tan 52^\circ \]
となります。ところで、$\tan 52^\circ $ の値というのはすでに求まっていて、約 1.28 です(タンジェントの表も参照)。上の式にこの値を代入すると
\[ \mathrm{AC} = 5\times 1.28 = 6.4 \,\textrm{[m]} \]
と求めることができました。これで、木に登らなくても安全に高さを求められましたね。
そんな正確に角度を求められるの…と疑問に思われるかもしれませんが、機械を使えばそれは可能です。
実際、このような作業は、工事現場でよくみられる「測量」で行われています。工事現場にはよく、赤と白の棒を持った人を望遠鏡でのぞいている人がいますよね?あれです。
測量機には距離と角度を正確に測る機能が備わっているので、今と同じ手法で、建物などの高さを測っているのです!
→ 参考「測量機のはたらき」
一般角への拡張
上の定義では、三角形に対してタンジェントを定義しましたが、実はもっと話を広げられます。…ということを簡単にお話ししますね。
三角形の内角の和は 180° であり、直角三角形の一つの角は 90° なので、残りの角は 0° より大きく、90° より小さい角度しか取れません。
ですが、タンジェントに用いる角度は、この範囲に限られていません。90° より大きい角度にもタンジェントの値はあるし、負の角度に対するタンジェントも存在するのです。
このような「一般角に対する」タンジェントの定義は、次の通りです。
座標平面上に、原点 $\mathrm{O}$ を中心とする半径 $r$ の円を描く。$x$ 軸の正の部分を始線として、角 $\theta$ の動径と円 $\mathrm{O}$ との交点の座標を $\mathrm{P}(x,y)$ としたとき、タンジェントを次のように定義する。
\[ \tan \theta = \frac{y}{x} \]
ただし、$x=0$ となるような $\theta$ に対して、$ \tan \theta $ は定義されない。
ここでは、この程度の解説にしておきましょう。
タンジェントの公式
基本的な公式
定義はそれほど難しくないタンジェントですが、サイン(sin)やコサイン(cos)といった、他の三角関数と結びつきながら、様々な関係式を得ることが出来ます。
ここでは、タンジェント(tan)に関する公式を一覧で紹介しています。
三角関数の相互関係
\begin{align*} \tan \theta &= \frac{\sin \theta}{\cos \theta} \\[5pt] 1+\tan^2 \theta &= \frac{1}{\cos^2 \theta} \\[5pt] \end{align*}
様々な角度に対する関係式
\begin{align*} \tan (-\theta) &= -\tan \theta \\[5pt] \tan \left(\theta + \frac{\pi}{2} \right) &= -\frac{1}{\tan \theta} \\[5pt] \tan \left(\frac{\pi}{2} -\theta \right) &= \frac{1}{\tan \theta} \\[5pt] \tan \left(\theta + \pi \right) &= \tan \theta \\[5pt] \tan (\pi - \theta) &= -\tan \theta \\[5pt] \tan (\theta + 2n\pi ) &= \tan \theta \\[5pt] \end{align*}
加法定理、倍角の公式、半角の公式
\begin{align*} \tan \left( \alpha +\beta \right) &= \frac{\tan \alpha + \tan \beta}{1- \tan \alpha \tan \beta} \\[5pt] \tan \left( \alpha - \beta \right) &= \frac{\tan \alpha - \tan \beta}{1+ \tan \alpha \tan \beta} \\[5pt] \tan 2\alpha &= \frac{2\tan \alpha}{1- \tan^2 \alpha} \\[5pt] \tan^2 \left( \frac{\alpha}{2} \right) &= \frac{1-\cos \alpha}{1+ \cos \alpha} \\[5pt] \end{align*}
直線の式がなす角
互いに垂直でない2直線
\[ y=m_1x+n_1, \quad y=m_2x+n_2 \]
のなす角を $\theta$ として
\[ \tan \theta = \frac{m_1-m_2}{1+m_1m_2} \]
微分・積分
タンジェントの微分・積分は次のようになります。
\begin{align*} (\tan x)' &= \frac{1}{\cos^2 x} \\[5pt] \left(\frac{1}{\tan x}\right)' &= - \frac{1}{\sin^2 x} \\[5pt] \int \tan x \,dx &= -\log|\cos x| + C \\[5pt] \int \frac{1}{\tan x} \,dx &= \log|\sin x| + C \\[5pt] \end{align*}
タンジェントの表
ここでは、タンジェントの値を 0° から 89° まで 1° 刻みで、小数第4位まで表にまとめています。
表にしましたが、数学を学習するうえで、これらの数値を使うことはまずありません… 3つの代表角 30°、45°、60° に対するタンジェントの値を覚えておけば、それで十分ですよ。
角度 | 正接(tan) |
---|---|
0° | 0.0000 |
1° | 0.0175 |
2° | 0.0349 |
3° | 0.0524 |
4° | 0.0699 |
5° | 0.0875 |
6° | 0.1051 |
7° | 0.1228 |
8° | 0.1405 |
9° | 0.1584 |
10° | 0.1763 |
11° | 0.1944 |
12° | 0.2126 |
13° | 0.2309 |
14° | 0.2493 |
15° | 0.2679 |
16° | 0.2867 |
17° | 0.3057 |
18° | 0.3249 |
19° | 0.3443 |
20° | 0.3640 |
21° | 0.3839 |
22° | 0.4040 |
23° | 0.4245 |
24° | 0.4452 |
25° | 0.4663 |
26° | 0.4877 |
27° | 0.5095 |
28° | 0.5317 |
29° | 0.5543 |
30° | 0.5774 |
31° | 0.6009 |
32° | 0.6249 |
33° | 0.6494 |
34° | 0.6745 |
35° | 0.7002 |
36° | 0.7265 |
37° | 0.7536 |
38° | 0.7813 |
39° | 0.8098 |
40° | 0.8391 |
41° | 0.8693 |
42° | 0.9004 |
43° | 0.9325 |
44° | 0.9657 |
45° | 1.0000 |
46° | 1.0355 |
47° | 1.0724 |
48° | 1.1106 |
49° | 1.1504 |
50° | 1.1918 |
51° | 1.2349 |
52° | 1.2799 |
53° | 1.3270 |
54° | 1.3764 |
55° | 1.4281 |
56° | 1.4826 |
57° | 1.5399 |
58° | 1.6003 |
59° | 1.6643 |
60° | 1.7321 |
61° | 1.8040 |
62° | 1.8807 |
63° | 1.9626 |
64° | 2.0503 |
65° | 2.1445 |
66° | 2.2460 |
67° | 2.3559 |
68° | 2.4751 |
69° | 2.6051 |
70° | 2.7475 |
71° | 2.9042 |
72° | 3.0777 |
73° | 3.2709 |
74° | 3.4874 |
75° | 3.7321 |
76° | 4.0108 |
77° | 4.3315 |
78° | 4.7046 |
79° | 5.1446 |
80° | 5.6713 |
81° | 6.3138 |
82° | 7.1154 |
83° | 8.1443 |
84° | 9.5144 |
85° | 11.4301 |
86° | 14.3007 |
87° | 19.0811 |
88° | 28.6363 |
89° | 57.2900 |
90° | - |